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無自覚臭ならぬ、無自覚セクハラに気をつける
最近、久しぶりにテレビを見ていたら、
リセッシュのCMで
「無自覚臭」
という言葉が出てきました。
自分では気づいていないけれど、
周りには伝わっている臭い。
なるほど、うまい言葉だなと思いました。
そこでふと思い出したのが、
セクシャルハラスメント、いわゆるセクハラです。
セクハラにも、
「無自覚セクハラ」
というものがあります。
本人にセクハラをするつもりはない。
相手を傷つけようとか、からかってやろうとか、
貶めてやろうという意図もない。
それでも、言われた側、された側が、
その言動をセクハラだと感じている。
こういうものを、無自覚セクハラといいます。
一方で、意図的セクハラというものもあります。
これは、相手を貶める。
からかう。
馬鹿にする。
そういった加害の意図に基づいて、
性的な話題や性別に関する言動で嫌がらせをするものです。
たとえば、
「あの人は年だから、難しいことを言っても理解できないよ」
「お前、彼女いないの?もしかしてそっちの気があるんじゃないの?」
「あの人、注意するとすぐブスっとするよね。女って扱いづらいわ」
こういうものは、明らかに相手を下に見たり、
馬鹿にしたりしている発言です。
これは当然、注意しなければいけません。
ただ、実際の相談で多いのは、
こうした分かりやすいものばかりではありません。
むしろ多いのは、
言った本人はそこまで悪気がない。
でも、相手は本気で嫌がっている。
そういう微妙なケースです。
たとえば、
男性上司が女性部下を心配して、食事に誘う。
上司としては、
元気がなさそうだから励ましたい。
話を聞いてあげたい。
そんな気持ちだったのかもしれません。
でも、部下からすると、
仕事外で二人きりの食事に誘われること自体が
苦痛だったということがあります。
また、
「育休取れていいわね。私が若い頃は、退職が当たり前だったのよ」
という言葉もあります。
言った年配の女性からすると、
今の制度をうらやましく感じたのかもしれません。
自分たちの時代の大変さを、
少し分かってほしかったのかもしれません。
ただ、若い女性からすると、
嫌味のように聞こえることがあります。
実際、私が銀行に入った2000年頃は、
社内結婚をすると女性は退職するのが当たり前、
というような空気がまだありました。
今考えると不思議ですが、
当時はそういう時代だったのだと思います。
他にも、
「君のレポートはよくできている。女にしておくのはもったいない」
という言葉があります。
言った本人は、
褒めているつもりだったのかもしれません。
レポートがよくできていると本気で思っていたのでしょう。
ただ、言葉の選び方がまずい。
褒めているようで、性別で見ていることが伝わってしまいます。
ボディタッチ。
下ネタ。
デュエットの強制。
ちゃん付け。
こういったものも、本人としては、
場を盛り上げたい、
フランクな関係を作りたい、
親しみを込めている、
という気持ちかもしれません。
でも、相手がどう受け止めるかは別です。
ここが、無自覚セクハラの難しいところです。
本人に悪気がない。
加害の意図もない。
でも、受け手は本気で困っている。
そして、相談を受けた上司や人事担当者は、
その言動をどう判断するのかを考えなければいけません。
ここでよく出てくるのが、
「相手がハラスメントだと感じたら、ハラスメントになる」
という言い方です。
この言葉だけを聞くと、
「そんなの、感じた者勝ちじゃないか」
と思う方もいるかもしれません。
ただ、正確には、相手が不快に感じたからといって、
必ずハラスメントになるわけではありません。
その言動の内容。
言われた場面。
お互いの関係性。
発言の継続性。
不快に感じたことの合理性や妥当性。
そういったものを見ながら、
総合的に判断する必要があります。
たとえば、
「部長って、生きているだけでセクハラよね」
これは、さすがに理不尽です。
部長がかわいそうです。
むしろ、その発言をした人の方が、
セクハラになる可能性があります。
つまり、
「嫌だったら何でもセクハラ」
というわけではありません。
では、なぜ
「相手がハラスメントだと感じたら、ハラスメントになる」
と言われるのか。
それは、会社や上司、人事部が、
グレーゾーンの相談に対応しなければならないからです。
相談した人が本気で不快に感じている。
同じ言動を、他の人も不快に感じるかもしれない。
このまま続けば、
職場の問題が大きくなるかもしれない。
そう考えると、会社としては、
「本人に悪気はありませんでした」
だけでは済みません。
たとえ明確にセクハラと断定できない場合でも、
「その言動は、セクハラに該当する可能性があります」
「誤解を招くので、今後は控えましょう」
と対応せざるを得ない場面が出てきます。
つまり、
法律的に何でも即アウトと判断できないけども
会社が相談を受けた以上、
グレーだから何もしない、というわけにもいかない。
その結果として、
「相手がセクハラだと感じたらセクハラになる」
という構造になりやすいのです。
ここが、無自覚セクハラのややこしいところです。
以前、佐川急便の件で、
「職場で『〇〇ちゃん』はセクハラ 元同僚に22万円支払い命令」
というような記事が出ていました。
このタイトルだけを見ると、
「えっ、ちゃん付けで呼ばれたら、22万円もらえるの?」
と早とちりしそうになります。
でも、実際には、
ちゃん付けだけが問題になったわけではありません。
「かわいいよね」
「体型いいよね」
といった発言もあったようです。
その結果、女性はうつ病と診断され、
退職に至ったとされています。
つまり、
ちゃん付けだけでセクハラ認定された、
という単純な話ではありません。
ただし、裁判所は、ちゃん付けについても、
業務上必要な呼び方ではないという趣旨の判断をしています。
ここに反発を覚える方もいると思います。
「うちの会社では普通にちゃん付けしている」
「本人も嫌がっていない」
「そんなことでセクハラになるのか」
そう思う気持ちも分かります。
私自身、過去に
ちゃん付けで呼んでいた人もいました。
ただ、この問題は、
本人同士の関係性だけで考えると危ないのです。
本人は嫌がっていないように見えても、
それを周りで聞いている人が不快に感じることがあります。
あるいは、
「あの人はちゃん付けされているのに、私はされていない」
「距離感に差をつけられているように感じる」
と受け取る人もいるかもしれません。
もしそういう相談が人事や総務に入ったら、
会社としては対応を考えなければいけません。
「ちゃん付けくらいいいじゃないか」
と言いたくもなるでしょう。
でも、あれこれ問題になるくらいなら、
職場では全員をさん付けにしましょう、という方向になることもあります。
逆に、
「それなら、もう全員ちゃん付けにしたらいいんじゃないか」
と思わなくもありません。
ただ、さすがにそれはそれで、別の問題が起きそうです。
社長もちゃん。
部長もちゃん。
新入社員もちゃん。
一瞬、職場の雰囲気はやわらかくなるかもしれませんが、
たぶん仕事はしづらくなります(笑)
結局、職場では、
余計な誤解を生まない呼び方にそろえる。
その方が、無難なのだと思います。
これも、無自覚セクハラのややこしさです。
特に下ネタなどは注意が必要です。
男性上司と女性部下の間では、
その場では笑って流されているように見える。
でも、それを聞いている周りの人が
不快に感じていることがあります。
「本人が嫌がっていないから大丈夫」
ではありません。
職場には、
そのやり取りを見聞きしている第三者もいるからです。
無自覚セクハラで大事なのは、
まずそういう問題があると知ることです。
自分には悪気がない。
相手を傷つけるつもりもない。
だから大丈夫。
そう思っているところに、リスクがあります。
誤解されるような言動は慎む。
性別に関する決めつけをしない。
親しさを理由に、距離感を詰めすぎない。
職場では、できるだけ業務上必要な言葉を選ぶ。
こうした意識が大切です。
この話を研修ですると、たまにアンケートで、
「生きづらい世の中になったものだ」
「もう女性とは必要なこと以外話さない」
という感想をいただくことがあります。
その気持ちも分からなくはありません。
ただ、極端に考える必要はないと思います。
大事なのは、
コミュニケーションをなくすことではありません。
相手が安心して働けるような
コミュニケーションを取ることです。
必要な会話はする。
感謝も伝える。
気遣いもする。
ただし、相手の受け止め方や、
職場全体への影響にも目を向ける。
それが、今の時代に求められるコミュニケーションなのだと思います。
ちなみに、
「セクシャルハラスメント」
という言葉は、
平成元年の流行語大賞にもなっています。
当時は、
それだけ社会に広がった言葉だったのだと思います。
ただ、今の時代だったら、
審査員の方々も困るかもしれません。
「たしかに流行ってはいるけど、これを“流行語”として表彰していいのか…」
「うーん、セクハラを流行語大賞にすること自体、セクハラと言われないか…」
「炎上しちゃうんじゃないか…」
「よし、やっぱ別の無難なやつを大賞にしておこう!」
そんな話になりそうです(笑)
セクハラという言葉が広がった結果、
セクハラという言葉の扱いにも気を遣う。
なんだか、ややこしい時代になりました。
無自覚臭なら、
誰かが気づいてくれるかもしれません。
でも、無自覚セクハラは、
気づいたときには人事部から呼ばれているかもしれません。
やっぱり、早めに気づきたいものです(笑)


