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定年後再雇用者のモチベーションをどう考えるか?
先日、ある会社から相談を受けました。
その会社では、60歳で定年を迎え、
その後は再雇用という形になります。
再雇用後は、給与も下がります。
しかも、下がる幅はそれなりに大きい。
そこで相談を受けたのが、
再雇用された社員さんのモチベーションについてでした。
再雇用後、
明らかに仕事への意欲が下がっているように見える。
これまで自分が担当していた仕事を、
やたらと後輩に振ろうとする。
何となく、楽をしようとしているようにも見える。
「こういう場合、どう考えたらいいのでしょうか」
という相談でした。
定年後再雇用で給与が下がること自体は、
直ちに違法になるわけではありません。
ただし、定年前と仕事内容や責任がほとんど変わらないのに、
給与だけ大きく下がる場合は、
同一労働同一賃金の観点から問題になる可能性があります。
とはいえ、この話を法律論だけで説明すると、
どうしても正論っぽくなります。
「仕事内容が同じなら、賃金差の説明が必要です」
「役割や責任の違いを整理しましょう」
もちろん大事です。
ただ、それだけでは、
相談された方のモヤモヤはすっきりしないかもしれません。
そこで私は、
ハーズバーグの二要因理論を使って整理してみました。
ハーズバーグの二要因理論では、
仕事に関する要因を大きく2つに分けて考えます。
一つは、衛生要因。
もう一つは、動機付け要因です。
衛生要因とは、不満に関係する要因です。
たとえば、
給与、労働条件、職場環境、人間関係などです。
これらが悪いと、人は不満を感じます。
場合によっては、会社を辞める理由にもなります。
一方で、衛生要因を整えたからといって、
それだけで人が前向きに働くとは限りません。
不満は減る。
でも、やる気が大きく上がるとは限らない。
ここがポイントです。
定年後再雇用の給与低下は、
まさにこの衛生要因に関わる話です。
給与が大きく下がる。
でも、仕事の内容はあまり変わらない。
そうなると、本人としては、
「この給与で、今までと同じ仕事をするのか」
「ここまで責任を持つ必要があるのか」
「このくらいの給与なら、このくらいの仕事でいいのではないか」
という気持ちになりやすいと思います。
本来、給与への不満が大きければ、
退職につながることもあります。
ただ、定年後再雇用の場合、
実際にはすぐに辞めるとは限りません。
60歳を過ぎてから、
新しい会社に移るのは簡単ではありません。
本人としても、今さら転職までは考えにくい、
という気持ちもあると思います。
つまり、給与に不満はある。
でも、辞めるわけではない。
その結果、職場には残るけれど、
モチベーションだけが下がっていく。
そういう状態になりやすいのです。
だからこそ、
会社がその人を戦力として考えているのであれば、
賃金の水準については、一度考える必要があります。
もちろん、
定年前とまったく同じ給与にするのは
難しい場合もあるでしょう。
ただ、
「戦力として期待している」
と言いながら、賃金だけは大きく下げる。
これでは、本人の気持ちがついてこないのも
無理はありません。
一方で、二要因理論には、
動機付け要因という考え方があります。
これは、仕事へのやりがいや、
前向きな意欲に関わるものです。
たとえば、達成感、承認、責任、成長、
仕事そのものの面白さ。
こういったものです。
再雇用者の場合、
ここもとても大事になります。
再雇用者には、
これまで培ってきた経験や知識があります。
仕事の勘どころもあります。
若い社員がつまずきやすいところも、
よく分かっています。
それなら、その経験を活かして、
後輩を育てる役割を明確にしてもよいと思います。
単に、
「今までの仕事をそのまま続けてください」
ではなく、
「あなたには、後輩を育てる役割を期待しています」
「これまでの経験を、次の世代に伝えてほしい」
「現場が安定しているのは、あなたがいてくれるからです」
そういう役割づけが必要です。
さらに、その役割に対して、
何らかの手当をつけることも考えられます。
たとえば、
「後輩育成手当」でも、
「技能継承手当」でも、
名前は会社に合う形でよいと思います。
手当をつけることは、
給与が下がったことへの
多少の衛生要因の改善にもなります。
同時に、
「会社はあなたにこの役割を期待しています」
というメッセージにもなります。
つまり、単なる金額の上乗せではなく、
期待している役割を伝える手段にもなるわけです。
大事なのは、
本人がその手当の意味を理解していることです。
何のためにもらっているのか。
会社は自分に何を期待しているのか。
そこが伝わって初めて、
手当は動機付けにもつながります。
もう一つ大事なのが、承認です。
若い社員や新人には、
比較的こまめに声をかけると思います。
うまくできたか。
どこができていなかったか。
次はどうしたらよいか。
そうやってフィードバックをします。
できたことがあれば、
「できたね」
と伝えます。
でも、60歳以降のベテラン社員になると、
このフィードバックが急に減ることがあります。
「あの人は大丈夫」
「もうベテランだから」
「今さら細かく言わなくても分かっている」
そう思って、
声をかける機会が少なくなるのです。
もちろん、
信頼しているからこそ放っておける、
という面もあります。
ただ、本人からすると、
寂しさを感じることもあります。
給与は下がった。
でも、仕事では貢献している。
それなのに、
感謝されている感じがしない。
必要とされている感じもしない。
そうなると、
「だったら、この給与に見合った仕事だけすればいいか」
という気持ちになっても不思議ではありません。
だからこそ、再雇用者に対しても、
承認やフィードバックは必要です。
「いつも助かっています」
「あなたがいてくれるから、現場が安定しています」
「若い社員への声かけがありがたいです」
「この部分は、ぜひ後輩に伝えてほしいです」
こうした言葉は、
思っているだけでは伝わりません。
きちんと言葉にする必要があります。
もちろん、
給与をまったく見直さずに、
声かけだけで何とかしようとしても、
限界があります。
「ありがとう」
と言われるのは嬉しい。
でも、給与は大きく下がったまま。
それでは、どこかに不満は残ります。
だからこそ、
賃金だけでも足りない。
承認だけでも足りない。
役割だけでも足りない。
大事なのは、
役割、承認、そしてそれに見合った賃金を
セットで考えることです。
今回、相談を受けたときに、
私はこの話を一つ一つ正論として説明するのではなく、
まずハーズバーグの二要因理論に当てはめて整理しました。
給与は衛生要因。
下がりすぎると不満になる。
ただし、それだけを整えても、
やる気が上がるとは限らない。
一方で、
やりがい、承認、役割は動機付け要因。
そこをどう設計するかで、
再雇用者の関わり方は変わってくる。
このように整理してお伝えしたところ、
相談された方から、
「すごくすっきりしました」
と言っていただきました。
漠然と、
「再雇用者のやる気が下がっている」
と考えると、
どうしても感情的になりやすいものです。
「楽をしようとしている」
「仕事を後輩に押しつけている」
「以前より責任感がなくなった」
そう見えてしまうこともあります。
でも、理論に当てはめて考えると、
少し違った見方ができます。
給与が下がったことで、
不満が生まれているのかもしれない。
役割があいまいだから、
どこまでやればよいのか迷っているのかもしれない。
承認が少なくなって、
必要とされている実感が薄れているのかもしれない。
そう考えると、
会社として考えるべきことも見えてきます。
理論というと、
「机上の空論」
と思われることがあります。
たしかに、現場は理論どおりには動きません。
人の気持ちも、
そんなに単純ではありません。
ただ、理論に当てはめることで、
少し整理できることがあります。
感情だけで見ていたものを、
少し落ち着いて考えることができる。
原因を、賃金の問題、役割の問題、承認の問題に
分けて考えることができる。
それだけでも、
次に何をすればよいのかが見えやすくなります。
定年後再雇用者のモチベーションは、
単に本人のやる気の問題ではありません。
給与、役割、承認、期待。
そして、会社としてどう向き合うか。
それらが重なって生まれるものだと思います。
再雇用者を本当に戦力として考えるのであれば、
「給与は下がるけど、これまで通り頑張ってください」
だけでは足りませんし、虫が良すぎます。
何を期待しているのか。
どんな役割を担ってほしいのか。
その役割に対して、
会社はどう評価し、どう報いるのか。
そこまで考える必要があります。
今回の相談を通じて、改めて感じました。
理論は、答えそのものではありません。
でも、現場で起きていることを整理するには、
意外と役に立ちます。
ただ、理論だけでは人は動きません。
最後はやっぱり、
会社がその人に何を期待しているのか。
そして、それをちゃんと言葉と処遇で伝えているのか。
そこなんだろうと思います。



